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もう一度読みたい【エッセイ・自分たち探し】
 フリージャーナリスト 國米 家己三さんのシリーズエッセイ



平凡で地味な人たちが天才的な組織力を発揮する

 スコットランド北部のインバネスからロンドンまでの千数百キロをバスツアーしている日本人がいる。ついては、あなたは滞日経験もあり日本語もできるから、そのツアーに参加して彼らの目にイギリスはどう映るのか取材してほしい。地元の新聞社からそんな要請を受けたイギリス人作家。仮にその名をジョン・ミラーとしますが、彼は、地元のバーミンガムで件(くだん)の日本人一行に合流しました。
 そのツアーのメンバーはといえば、高校時代の同期で、いま50歳代の女性8人をはじめ、インバネスで挙式したばかりの新婚カップル、定年退職後初めての海外旅行を楽しむ数組の老夫婦など種々雑多の30人余り。文字通りの寄り合い世帯です。しかしミラーが合流したとき、彼らはすでに数百キロの旅をともしてすっかり打ち解けていました。だれがリーダーというでもなく和気藹々。甲高い声をあげたり、他を傷つけるような言葉を口にする人もなく、静かで清潔、安全。まさに、だれかがいったように「日本人は和の場をつくるチームワークの天才」を地でゆくグループです。ミラーも、たちまちこの居心地のいい、和やかな「小さな日本」に浸ってしまいました。
 さて、終着駅に着いて日本人と別れたミラーは、ひとりロンドンの街を歩きだすのですが、これがなんとも恐ろしくてしょうがない。よく知った街なのに、周囲が敵意と刺(とげ)と陥穽にあふれているような気がして身震いがとまりません。かって経験したことのない「浮き立つような興奮と恐怖をこもごも感じた」というのです。
 ミラーは日本人たちと数日過ごすうちに、すっかり緊張感を忘れてしまった。生きることは戦うこと、というイギリス的感覚を失ってしまった。まったく和やかな世界から、論争や諍い、対立があるのが常態の英国の生活に戻って、ちょうど時差ボケと同じような文化ボケを味合うことになったのです。
 数学者で大道芸者のピーター・。フランクル氏。ソ連抑圧下のハンガリーを逃れて世界数十カ国をみてきたあと、20年ほど前に来日してこの国に落ち着きました。
 「欧米では週に1回は必ず誰かと喧嘩したものだが、日本では喧嘩するチャンスがない」
 「日本の最大の魅力は、日本人との仕事。一つのグループに一つの仕事を与えられると、皆でこれを成功させなければならないという不思議なほど強い一体感が生まれる」。チームワークで取り組む仕事の途中の過程がすばらしいし、またやり終えたあとの充実感、達成感は、とてもとても金銭などには変えられない、とピーター氏はいいます。
 あるアメリカ人の言葉に「中国人1人に日本人10人がいて力量はトントン」というのがあります。口八丁、手八丁の中国人には1VS1ではとてもかなわないということですが、この言葉はこう続くのです。「だが、日本人100人には中国人1000人が必要だ」  
 中国からきて、いま法政大学教授となっている王敏女子の話。
 「中国人の好きな花は、一輪の花でも周囲を圧倒する華麗なハクモクレンですが、日本人は桜や藤、萩、野菊、コスモスが好き。こうした花はまとまって咲くのを競い合う群れの美。私は日本人の集団の力を連想します」
 そう、例外はあるにしても、とりたてて目立ちもしない、平凡で、地味で、埋没した存在。だが、そういう人たちが、実はきわめて"日本的"で、いざチームワークを発揮するとなると、まことにいい仕事をする。日本を大きく動かすダイナミズムにつながっていて、このような組織力こそが、日本にとっての最も貴重な資源であるような気がします。