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もう一度読みたい【エッセイ・自分たち探し】
 フリージャーナリスト 國米 家己三さんのシリーズエッセイ



日本人は油断するとダチョウになってしまう


 東日本大震災で被災した東京電力・福島第一原子力発電所の現場に、いち早く出動したロボットは米国製、ドイツ製、スウェーデン製など外国のものばかり。千葉工大・未来ロボット技術研究センターが開発した唯一の国産ロボット「Quince(クインス)」が原子炉の建屋に入って放射線量の計測をはじめたのはやっと6月下旬、発生から3カ月後のことでした。
 「あれっ、日本は『ロボット王国』じゃなかったの?」
 そう思った人は多かったはず。自動車や電子機器その他の工場で働く産業用ロボットの世界シェアは70%。障害者や老人を支援する介護ロボ、ビルや大型店を巡回する警備ロボ、水田のなかで初めから終わりまで"ひとり"で田植えをやってのけるロボなどが、すでに第一線で活躍している。最近は、人間そっくりの顔をもち話もするアンドロイド出演の芝居が海外公演に出かけるというほど、ロボット技術は進化を遂げています。少年たちのロボット開発熱も大変なもので、年間何回も各地でロボコンが開催されている。たしかにこの国は「ロボット王国」です。しかるに原発災害に即応するロボットだけがいなかった。なぜか。
 誤解を恐れずにいいますが、われわれ日本人には、いやなものは真っ正面からはみようとしないという性癖がある。華やかで、世間の注目を浴びるような、しかも安全なものだけを見ている。ダチョウは敵に追われると砂のなかに頭を突っ込み敵をみようとしない、といいますが、じつは日本中が、このダチョウ現象に陥って、原発被災など考えようとしなかった。
 日本ロボット工業会は11年前にまとめた報告書のなかで「日本の産業ロボットの技術力は世界一だが、災害対応ロボットの競争力は弱い」とはっきり指摘しています。ロボット開発者もまた、ダチョウ現象に犯されていた、といわざるをえません。
 もっと問題なのは国の原子力安全・保安院や東電をはじめとする全国の電力会社です。彼らは「日本の原発は絶対安全」と原発周辺の住民を口説き、原発建設の当初から30年、40年と、こういいつづけてきました。しかし原発操業の当事者でありながら、実態はダチョウだった。東電が、「今度の大震災は想定外」といったのがなによりその証拠です。西暦869年東北地方は、今回の東日本大震災と同じマグニチュード9.0クラスの貞(じょう)観(かん)地震に襲われている。昨年の国会で、この件を取り上げた議員もいました。また同規模のチリ大地震が起こって、東北が現実に津波被害をこうむったのもさほど古い話ではない。十分想定できた大震災を「想定外」といったのは、まさに東電たちがダチョウ的だったからです。
 「原発は絶対安全」を繰り返しているうちに、住民ばかりか自分たち東電の末端の社員から幹部まで「絶対安全」と信ずるようになったのではないか。技術の世界に「絶対安全」などはめったにありません。しかし住民に対して繰り返した言葉が東電側に跳ね返って、自分たちも知らず知らず絶対安全と思い込むようになった可能性がある。この様な状態を防災研究者の間では「同調性バイアス」というそうです。「バイアス」とは先入観とか、思い込みといった意味。防災問題の専門家、広瀬弘忠・東京女子大教授は「集団志向の強い日本人にとって周囲の気配をうかがって行動するのが身についた習慣になっている」といい、「同調性バイアス」の傾向はわれわれの民族性でもあると述べています。
 いやなことを考えないでダチョウ現象が、同調性バイアスによってさらに拡大する。これが国防問題にも広がると国家の基盤崩壊に直結します。われわれの内面にある弱点を十分自覚すべきでしょう。