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もう一度読みたい【エッセイ・自分たち探し】
 フリージャーナリスト 國米 家己三さんのシリーズエッセイ



「草食文化」由来の日本人がなぜ「植物由来」で世界をリードできないのか

 
 新聞の経済産業面で、最近「植物由来」という見出しを結構な頻度でみるようになりました。「ナイロン繊維 植物由来で」「植物由来のゴム開発」「植物由来の水性ワックスお目見え」「変電所が植物由来の油使用」などといったぐあい。「植物原料」とか「植物性」といえばいいところを、新しがってわざわざ「植物由来」とやっている気もするのですが…。
 ただ、化石燃料由来の製品の多くが植物由来へ切り替わることで二酸化炭素の排出量を減らし、地球温暖化を防ごうというというのですから、こうした動き自体はおおいに歓迎すべきものでしょう。
 実際、トウモロコシやサトウキビから作るバイオ燃料は、すでに南米を中心にかなり普及しているし、湖沼などの水中で育つ植物、藻類の燃料化研究もすすんでいます。繊維素材の分野でも、植物の繊維をナノ(10億分の1)メートル単位にばらしてつくる「バイオナノファイバー」が実用化一歩手前まできているといわれています。このナノ繊維は鉄鋼並みの強度をもちながら重さは5分の1。熱による膨張率もガラスの50分の1。"夢の素材"と呼ばれ、用途も建材のほか車、航空機の車体や機体材料に、また衝撃に強いが曲げ加工がしやすい点が買われて家電や電子部品の素材に、さらに酸素を通さない透明フィルムとして包装材などに、広範な需要が見込まれているようです。
 ただ世界的にみた場合、日本の新技術が先行しているかというと必ずしもそうではなく、バイオナノファイバーの研究などはスウェーデン、カナダ、米国などが思い切った予算を投じて意欲的な取り組みをみせ、すでに特許も多数取得しているとのことです。
 考えてみると日本は、わたしがかねがね口にしてきた「草食文化」の国です。「植物由来」のものに滅法、強いはず。何といっても1200年以上前に詠まれた「万葉集」には160種の植物が登場しますが、この時代、世界のどこにもこんなに多くの草木の知識をもっていた民族はいません。
 司馬遼太郎氏は、「日本人から草の名を聞かれると、実に困ってしまう。と中国人の通訳が言ったことがある。中国人の暮らしには草や木の名はほとんどでてこないから、通訳も知らない。韓国人も植物に関しては大ざっぱである」と「風塵抄」に書いています。
 「日本人は自然をよく知っている。アメリカ人は知らないが、この雑草は何か、この花は何という名前かを日本人は知っている」
といったのは日本文学を長年研究してきたエドヮード・G・サイディンステッカーさん。
 こういう国だから、植物が「暑過ぎる」「寒すぎる」といえば、その苦情を電気信号でとらえて言語化する研究もおこなわれている。
 また植物に音楽を聴かせて、彼らのストレスを軽減し、順調な生育を促したりする。曲の種類では、ロックは嫌われ、クラシックがお好みのようだ。なかでも植物がもっともご機嫌なのは雅楽。さすが「草食文化」の日本人が育てたこの音楽に一番の親近感を感じるらしいのです。
 にもかかわらず「植物由来」の新産業では世界を大きくリードしきれない。なぜだろう。たぶん、日本の研究者たちは欧米の文献ばかりみて、足元の自分たちの特性について思いを巡らすというということがないからでしょう。何ごとも海外経由で入ってくるものへの執着が強すぎるからだと思います。もっと日本人固有の傾向に目を向けていれば、少なくとも40年近く前の石油ショック直後からバイオ燃料やバイオ繊維の研究を国家意思として推進することができたはずです。「自分たち探し」がいかに大切か、につながる話なのです。